宮本輝「流転の海」~「野の春」まで
全九巻を読了しました!
執筆に37年、
去年の秋に最終巻「野の春」が刊行されついに完結となった、
宮本輝の父親をモデルにした壮大な自伝的小説です。
宮本輝の小説にはまったのは10年くらい前の事です。
手当たり次第に30冊くらい読んだ覚えがあります。
宮本輝の作品は私の中で明るい小説と暗い小説があって
自伝的な作品は暗いというイメージを持っていました。
「泥の河」や「道頓堀川」等々。
私が「流転の海」を読み始めたのは2008年でした。
ちょっと暗い感じだったので第2巻を買うのを躊躇したのですが
相方が「これの続きを読みたい」と言うので文庫で発売されている5巻まで購入し
買ったからにはと私も読み終わりました。
その後なかなか次巻が発売されないし、文庫になるのはまた何年か先になるので
そのままになって月日が流れました。
先日ブログのお友達が全巻読了の記事をアップされていたので
そうだ、この小説途中までしか読んでなかったと思い出し
6巻から8巻まで購入しました。
(第9巻はまだ文庫化されていないので図書館で借りました)
6巻以降を読み始めるのに間が10年以上空きました、
もうすっかり忘れているので第1巻から再読となりました。
主人公は作者の父親に当たる松坂熊吾、
そして妻房江と一人息子の伸仁(宮本輝)
この三人が終戦後の荒波の中でどう生きてきたのかが克明に描かれます。
松坂熊吾は破天荒な男であるけれど情に厚く他人からの信頼は厚い、
女性にだらしなく粗暴な振る舞いも多々あり妻に暴力をふるうので
どうにも好きになれないキャラクターなのだけれど男気があって魅力的なんです。
学歴は無いけれど実社会で培った教養は底知れないほどあり
戦後の混乱した時期に、この先何を商売にすれば発展するかを見抜く力があり
いち早く取り組む行動力もあるのです。
しかし商売が順調に進み大きくなりかける頃には
仕事をまかせた部下にことごとく裏切られ横領され窮地に陥るはめになるのです。
戦前に実業家として名を馳せた松坂熊吾が没落していく話なので
どうしても暗い話になります。
宮本輝は1947年生まれ、私は1953年生まれで相方は1951年です。
なので小説の中の松坂熊吾はほぼ私の両親が生きた時代、
私と相方は息子の伸仁と同じ時代を生きてきたという実感があり
この小説にのめり込み共感するところが充分にあったのです。
この市井の一家族の歴史は、戦後の混乱期から復興し高度成長を遂げた昭和の歴史と重なり
戦災で無一物になった多くの人間がどんなに苦労して会社を興しこの国を復興させたのかが
なまじな歴史書を読むより骨身にしみて良く分かりました。
熊吾の、時代や社会を見据える見識はそのまま宮本輝の理念が反映されているかのようで
小説の中からまざまざと伝わってくるメッセージがあるのです。
最終巻の「野の春」は
穏やかな気持ちで読み終える事が出来ました。
三十七年もかけて七千枚近い原稿用紙を使って何を書きたかったかと問われたら
「ひとりひとりの無名の人間のなかの壮大な生老病死の劇」と答えるしかない。
と宮本輝は最終巻のあとがきで語っています。
この宮本輝文学の原点とも言える「流転の海」シリーズを読んだ今、
昔読んだ著作本をもう一度読み返したくなりました。
「なにがどうなろうと、たいしたことはありゃあせん」
私も熊吾の、このおおらかな度量で生きていきたいと思いました!
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